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果つる底なき のアーカイブ

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「これは貸しだからな」。 謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。 死因はアレルギー性ショック。 彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった…。 坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ一人、銀行の暗闇に立ち向かう! (内容紹介より) 『果つる底なき』(池井戸潤著 講談社文庫) 未読だった江戸川乱歩賞作品。 第44回(1998年)は、福井晴敏『Twelve Y. 』とのダブル受賞だったそうな。 計画倒産、不穏な企業買収、銀行エリートの派閥抗争を描いている。 著者の経歴を見ると元銀行マンであり、実際に体験したことが本書の下敷きになっているという。 デビュー作である本書の質はかなり高い。 なによりひとが描けているのがいい。 江戸川乱歩賞は新人の登竜門としてはかなりレベルが高い。 だからといって作家としての将来が約束されているわけではない。 ミステリというのは、ミステリという手法をつかった小説である。 著者は順調に執筆活動を送っているようだ。 直木賞候補になった作品もある。 また、かつての経験を活かしてビジネス書の執筆も多数あるからたいしたものである。

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『果つる底なき (講談社文庫)』(池井戸潤)の感想(530レビュー)

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果つる底なきの主要登場人物 伊木遥(いぎはるか) 主人公。 二都銀行の渋谷支店融資課で課長代理として融資を担当している。 かつては本店で海外企業の買収に関わっていたが左遷された。 坂本健司(さかもとけんじ) 伊木の同期で同じく渋谷支店融資課で回収を担当している。 謎の言葉を残して変死する。 坂本曜子(さかもとようこ) 坂本の妻。 かつて伊木と付き合っていた時期がある。 柳葉奈緒(やなぎばなお) 東京シリコンの社長令嬢。 伊木とは過去に友人付き合いがあった。 山崎耕太(やまざきこうた) 二都商事金属グループ金属課長。 信越マテリアルに出向している。 果つる底なき の簡単なあらすじ 二都銀行の渋谷支店に勤める伊木は、外回り中に同期の坂本と出くわします。 坂本は、大きな回収案件に関わっていたようですが、「これは貸しだからな」という謎のセリフを残して去っていきます。 翌日、坂本の変死体が発見され、坂本が銀行の金を横領していた痕跡が見つかります。 支店長以下銀行の面々は事実関係から坂本を疑うだけでしたが、伊木の元に刑事が訪れて坂本の死は他殺の可能性もあると話します。 かつては本店で海外買収案件に携わっていましたが、正義を貫いた結果左遷された過去があります。 伊木はある日の外回り中に同期で同じ融資課の回収担当として働く坂本と出会います。 坂本は大きな案件を抱えているようでしたが、「これは貸しだぞ」と謎の言葉を残して去っていきます。 翌日、坂本が遺体で発見されます。 死因は蜂に刺されたアレルギー反応によるアナフィラキシーショックで、銀行内の調査では坂本が三千万円を横領していた事実も判明します。 伊木は坂本の担当を引き継ぐこととなり、挨拶回りに行きますが、その中にはかつて融資担当し救うことの出来なかった東京シリコンも含まれていました。 当時、東京シリコンの社長柳葉朔太郎とは公私共に親しくなり、娘の菜緒とも友人となりました。 しかし東京シリコンの資金繰りが苦しくなり頼りにしていた信越マテリアルが和議申請をすると、銀行は東京シリコンを見限り倒産に追い込みます。 伊木は何とか助けようとしたものの、上層部の決定に逆らえませんでした。 その後、朔太郎は金策に走る中で自殺してしまいました。 この為、菜緒からは裏切り者と呼ばれ恨まれており、伊木が久しぶりに挨拶に行っても怒りを買うだけでした。 伊木が銀行に戻ると、山崎耕太という男が挨拶に来ていました。 山崎は元は二都商事金属グループ金属課長であり、信越マテリアルの財務部長として出向中の身でした。 坂本に世話になっていたらしく、伊木に挨拶すると和議の計画について相談します。 伊木が深夜に帰宅すると、自宅前で刑事が待っていました。 坂本の死因と状況から刑事は伊木を疑っているようでした。 粉飾と暗殺者 伊木は坂本から引き継いだ仕事の中に坂本が殺される要因があるのではないかと疑います。 坂本のパソコンや書類を細かく調べていくと、資料やメモは綺麗に整理整頓されていますが、109という謎のメモが消えていました。 109に関してはメモ自体は無いものの、東京シリコンの資料に109の記載を見つけ、伊木が改めて東京シリコンへの融資や売上を見てみると、実は粉飾があったと気づきます。 坂本が貸しだと言っていたのはこの事であり、東京シリコンと信越マテリアル絡みで殺されたようでした。 菜緒に頼んで東京シリコンの経理資料で粉飾の裏が取れると、東京シリコン絡みの資料を重点的に調べることとします。 伊木は調べを進めるうちに敵の存在を感じるようになります。 自宅前で怪しげな男を目撃し、蜂の死骸をポストに入れられ次はお前だと脅しを受けます。 また、敵は複数犯であり銀行内にも紛れているようで、伊木のデスク上の資料が消えたり、坂本の死後に坂本の個人パソコンのファイルが改竄されていたりします。 伊木は防犯カメラの映像を調べようとビデオ屋の室岡に依頼してビデオをダビングしようと試みますが、ビデオを受け取りに行く前に課長の古河に飲みに行こうと誘われます。 古河から副支店長の北川から睨まれるのであまり目立つような行動は取るなと諌められますが、伊木は出世にも興味は無く家族もいないため意に介しません。 古河は支店長の高畠が左遷させられそうなこと、前支店長は東京シリコンの倒産を予見していたのではないかという自身の推測などを語ります。 二次会のスナックを出た所で、男に襲われ古河が伊木を庇って刺されます。 男は伊木の鞄を奪って逃走し、伊木は古河の家族と上司に連絡して病院へと向かいます。 古河は何とか一命を取り留め、安堵した伊木は鞄を奪われた理由を考えますが防犯カメラのビデオが原因ではないかという結論に辿り着きます。 坂本の自宅に置いてあった資料から東京シリコンが仁科佐和子という個人に多額の金を振り込んでいる証拠を見つけます。 次に防犯カメラのビデオを受け取りに室岡の元を訪れますが、先日襲ってきた男に尾行されているのに気づきます。 室岡の部屋の非常階段を使って逃げ、自宅に戻ってビデオを確認すると、自身のデスクから資料を持ち去ったのは北川だと分かります。 北川はいきなり伊木の自宅に押しかけてきて人事権をチラつかせて脅しますが、伊木は笑い飛ばします。 すると殴りかかってきますが、返り討ちにすると捨て台詞と共に去っていきます。 北川は翌日、遺体となって発見され真犯人は別にいることが分かります。 伊木は信越マテリアルの和議が成立すると菜緒から食事の誘いを受けます。 菜緒は大学を辞めて東京シリコンを再建しようと考えており伊木からアドバイスをもらいたいと頼み、伊木は菜緒から信越マテリアル絡みの情報を得ます。 信越マテリアルは他を寄せ付けない技術を持っており、二都商事も買収しようとしたことがありましたが社長の難波と朔太郎が反対し買収失敗したこともあったそうです。 この日の食事の最後に、伊木と菜緒は関係を修復し互いの気持ちを確認すると交際し始めます。 北川について調べると、どこかから金を手に入れて青木扶佐子という女に貢いでいたことが分かります。 また坂本のパソコンのデータを改竄したのは北川だということも判明します。 さらに本店時代の先輩西口に頼んで調べてもらうと、坂本のアレルギーを北川が知っていたという事実を掴みます。 刑事から連絡があり、古河を刺した男は李洋平と名乗っておりいくつかの未解決殺人事件に関わっていた危険人物なので注意するよう言われます。 坂本の死の真相 伊木は西口から北川の件以外にも様々な情報を得ます。 信越マテリアルは二都商事が技術を手に入れるために計画倒産させられており、技術者は仁科佐和子が代表を務めるテンナインという会社に引き抜かれていました。 これでようやく朔太郎が金を振り込んでいた先と坂本の109のメモの意味が繋がります。 伊木は菜緒と共に難波を訪ね、仁科佐和子の素性を聞きます。 仁科は元は水商売をしていたのを難波が引き抜き秘書にし、共に信越マテリアルを成長させたパートナーでした。 しかし仁科は難波を騙して技術者を引き抜き横領した金を使ってテンナインを設立していました。 難波は仁科に全幅の信頼を置いており、もし殺されても本望だと話します。 最後に佐竹という技術者を紹介されて伊木と菜緒は東京へと戻りますが、途中で不審車に追いかけられギリギリで躱したものの、事故に巻き込まれた一般人が亡くなります。 佐竹もテンナインに引き抜かれた一人で、紹介していたのは伊木も知っている男でした。 刑事から連絡があり、難波が飛び降りて死んだと知ります。 伊木は仁科の元へ行き問い詰めていると、背後から不意打ちをくらいます。 襲ってきたのは山崎耕太であり全ての黒幕はこの男でした。 仁科も山崎に騙されており人が死んでいる事など知りませんでしたが、山崎は何人でも殺すし幾らでも金を騙し取ってやると豪語します。 伊木は怒りを山崎にぶつけ、殺された人達の分まで山崎を殴りつけて気絶させます。 伊木は自宅に戻ると李洋平に刺されますが、李の本名は山崎だと見破ります。 何とか部屋に辿り着くと山崎洋平が菜緒に襲いかかりますが、そこには2人の刑事が待ち構えていました。 伊木は無事一命を取り留め、見舞いに来た西口から金の回収ができて東京シリコンの負債は無くなりそうだと聞かされます。 これで死んだ朔太郎と坂本も浮かばれると伊木は安堵しました。 果つる底なき を読んだ読書感想 半沢シリーズなどと同じく、池井戸潤さんの銀行員時代の経験を活かした作品ですが、特徴として多くの人が殺されるかなり血なまぐさい話だということが挙げられます。 半沢シリーズや花咲舞などの他作品では、主人公が銀行内外の巨大な権力を相手に臆せず立ち向かうという構図が人気を呼んでいますが、本作では巨大権力と言うよりは黒幕の山崎は危険な悪党という印象です。 どんな手を使ってでも自分の目的を達するという思いが強く、弟の洋平を使ってどんどんと人を殺していきます。 さすがに同じ銀行内で3人も死傷者が出れば異常だと疑われて当然ですし、伊木の周りをストーカーのように付け回しており、警察が本気を出せば簡単に捕まえられたのではないかとさえ思えます。 現に、かなり早い段階で素人の伊木が尾行に気づくぐらいなので、洋平は目立つような場所をうろついていたと思われ、警察は伊木のマンション周辺を警備するだけで複数殺人の犯人を検挙出来たはずなのに何をしていたのかと思います。 もう少し警察が早く動けばこんなに人が殺されなくても済んだのではと思えます。 危険な人物に追い回されても敢然と立ち向かう伊木は男気溢れるカッコいい男でした。

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果つる底なき(池井戸潤原作)|日本映画・邦画を見るなら日本映画専門チャンネル

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推理作家協会賞 2019年 第72回• 長編および連作短編集部門 『』 葉真中顕• 短編部門 『』 澤村伊智• 評論・研究部門 『』 長山靖生 2018年 第71回• 長編および連作短編集部門 『』 古処誠二• 短編部門 『』 降田天• 評論・研究部門 『』 宮田昇 2017年 第70回• 長編及び連作短編集部門 『』 宇佐美まこと• 短編部門 『』 薬丸岳 2016年 第69回• 長編及び連作短編集部門 『』 柚月裕子• 短編部門 『』 大石直紀• 短編部門 『』 永嶋恵美• 評論その他の部門 『』 門井慶喜 2015年 第68回• 長編及び連作短編集部門 『』 月村了衛• 長編及び連作短編集部門 『』 早見和真• 評論その他の部門 『』 喜国雅彦• 評論その他の部門 『』 霜月蒼 江戸川乱歩賞 2019年 第65回• 『』 神護かずみ 2018年 第64回• 『』 斉藤詠一 2017年 第63回• 『』 2016年 第62回• 『』 佐藤究 2015年 第61回• 『』 呉勝浩 1998年 第44回 江戸川乱歩賞 受賞作 とぅえるう゛わいおー 12〈twelve Y. O〉 受賞者:(ふくいはるとし) 受賞の言葉 特に文学指向だったわけではなく、湯水の如く金をかけたハリウッド製冒険アクション映画に憧れ、邦画では描けないその醍醐味を表現する手段として小説を選んだだけの自分が、江戸川乱歩賞という大変栄誉ある賞を頂けた僥倖に、今はまだ呆然自失の思いです。 そうそうたる過去受賞者の名に恥じぬよう、これからより一層の精進を重ね、読者の方々に「買って得した」と感じて頂ける本を書いてゆければと思っています。 本当にありがとうございました。 今、この国は変革の陣痛の最中にあります。 保護統制を基調とした旧来のシステムを失い、私たちの社会は新たな枠組みの創造を内外から求められていますが、それができずに痛みだけが長引いてしまうのも、長い間「国家」と「個人」とを結びつけて考えようとせず、経済大国という肩書き以外に自らを語る言葉を持てなかった、我々日本人の精神的空白が横たわっているからなのかもしれません。 かつて、その様を「十二歳の子供」と評した戦勝国の人物がいました。 この物語は、その言葉の呪縛を断ち切るために血みどろの闘争を宿命づけられた男と、彼を取り囲む人々それぞれの想いと戦いを描いたものです。 彼らが手にする「救い」と「希望」は凡庸なものかもしれませんが、その中にこそ現在の閉塞を突破する可能性があると信じたいのです。 作家略歴 1968~ 東京生れ。 私立千葉商科大学中退。 警備会社に勤務のかたわら、一九九七年「川の深さは」を江戸川乱歩賞に応募、受賞は逸したものの高く評価され、のちに刊行されて好評に迎えられた。 翌九八年、第四十四回乱歩賞を受賞した「Twelve Y. 」は毀誉褒貶分かれたが、前記二作と三部作をなす「亡国のイージス」は各方面から絶賛され、第五十三回日本推理作家協会賞を受賞している。 2003年『終戦のローレライ』にて第23回吉川英治文学新人賞を受賞 1998年 第44回 江戸川乱歩賞 受賞作 はつるそこなき 果つる底なき 受賞者:(いけいどじゅん) 受賞の言葉 子供のころからあこがれていた江戸川乱歩賞を受賞することができました。 私の作品を選んで下さった選考委員のみなさん、この作品を書き上げるまでに様々なアドバイスと激励を頂いた方々に心から感謝のことばを申し上げます。 ありがとうございました。 受賞作は、私がかつて勤めていた銀行で本当にあった倒産とそれに関する様々な出来事をモチーフにした金融ミステリーです。 実際に事件とかかわった身としては、書きたくて書いたというより、どうしても書かなければならなかったと言ったほうがしっくりくる、因縁の作品といっていいでしょう。 本当は忘れてしまいたいような出来事なのに、忘れられない。 心の中でしこっていたものをなんとか整理するために書いたその小説が江戸川乱歩賞という幸運を引き当て、新たな途を切り拓いたのですから、なんとも不思議なことがあるものです。 銀行を退職して三年になりますが、いまようやく自分の選択が正しかったと心から思えるようになりました。 作家になるのは私の夢(Vision)です。 今回の受賞で、私はその夢を実現させるための挑戦権を得たに過ぎません。 受賞することではなく、書き続けることが作家になるということだからです。 本当の挑戦はこれからですが、書きたいことはたくさんあります。 ジャンルにこだわらず、どん欲に幅広いエンターテインメントを書いていくつもりです。 どうぞお楽しみに。 作家略歴 1963~ 岐阜県生まれ。 慶應義塾大学卒。 1998年 『果つる底なき』にて第44回江戸川乱歩賞を受賞。 2010年 『鉄の骨』にて第31回吉川英治文学新人賞を受賞。 2011年 『下町ロケット』にて第145回直木賞を受賞。 趣味: ゴルフ、写真、フライフィッシング 選考 以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。 ご了承おきの上、ご覧下さい。 選考経過 選考経過を見る 本年度乱歩賞は、一月末日の締切りまでに応募総数二九九篇が集まり、予選委員(香山二三郎、郷原宏、関口苑生、松原智恵、山前譲、結城信孝の六氏)により最終的に左記の候補作五篇が選出された。 <候補作> ビッグタウン 賀芳 文吾 カマクラ動乱 犬神 鳴海 12〈twelve Y. O〉 福井 晴敏 天馬誕生 中野 順市 果つる底なき 池井戸 潤 この五篇を六月二十三日(火)「福田家」において、選考委員・阿刀田高、大沢在昌、北方謙三、高橋克彦、皆川博子の五氏(五十音順)の出席のもとに、慎重なる審議の結果、池井戸潤氏の「果つる底なき」、福井晴敏氏の「12〈twelve Y. O〉」の二作に決定。 授賞式は九月二十五日(金)午後六時より帝国ホテルにて行われる。 閉じる 選評 阿刀田高 選考経過を見る 小説には、それぞれの作品が担うべき特徴があるようだ。 ざっくばらんに言えば、ユーモアで売るもの、トリックで売るもの、主人公の恰好よさで売るもの、思想の深さで売るもの、文章の精緻さで売るものなどなどである。 本当の意味での優秀作は、この特徴のほかにプラス・アルファを備えているのだが、それは別格として、とにかく担うべき特徴を外していては話にもならない。 「カマクラ動乱」は、仕掛の複雑さとユーモアが売りの作品と見たが、どちらも成功しているとは思えなかった。 「ビッグタウン」は、都会の闇を舞台にしたハードボイルドが売りである。 政治家の暗躍、隠し子、やくざ、探偵、そこそこには書けているのだが、どれも月並で、新しい魅力を作りえなかった。 「天馬誕生」は、人工生殖を扱い、仕掛はおもしろい。 「12」は力の溢れる作品である。 戦闘の場面など高揚した情況の描写力には舌をまく。 だが、作者の胸中に溢れるものが多すぎて、それが随所に、ちょっと抑制を欠いて饒舌に語られてしまううらみ、なきにしもあらず。 私にはところどころ読みづらかった。 腕力は申し分ない。 大成を期待したい。 「果つる底なき」は、読みやすい。 あえて、言えばこれは銀行ミステリーの誕生を宣言する作品だ。 弱点は登場人物に読者の胸をおどらせる魅力がないこと。 このかたにも大成を期待したい。 閉じる 大沢在昌 選考経過を見る 各作について感想を述べていく。 「ビッグタウン」 新宿を舞台に元マル暴刑事の私立探偵、やくざ、国会議員、家出少女という配置は、あまりにもオーソドックスである。 この方の文章には妙なツヤがあり、好感は抱けたが、ハードボイルドは現代ミステリの激戦区のひとつであり、この道具立て、ストーリーでデビューを果たせるとは思えない。 主人公を現在の境遇に追いこんだ暴力団組長とあっさり友情を通じさせてしまうことへも違和感をもった。 また「新宿の熊」や「新宿署のマムシ」という表現もどうだろうか。 風俗や警察組織に関する情報は、週刊誌の記事の域をでていない。 もっとオリジナリティにこだわった作品で勝負していただきたい。 「天馬誕生」 遺伝子を題材にすえた作品は、国内外を問わず、力作が次々と発表されている。 アイデアは良いのだが、組織の描き方に強引さと失敗がある。 「闇の巨大組織」を描くのなら、白地の紙に「組織」と大書するのではなく、「組織」という文字以外の部分を塗り潰す方法をとるべきだろう。 日本の霊長類研究所が、アメリカの国家秘密にも匹敵する遺伝子をあっさり手に入れたり、殺し屋を雇ったり、ついにはマスコミすらコントロールしてしまうという設定にはついていけない。 「カマクラ動乱」 ミステリにおけるユーモアの活用法を誤っているとしか思えず、劣悪なコメディに等しい作品となってしまった。 本格とユーモアを合体させたものを書きたいのならば、腰をすえ、正攻法で勝負していただきたい。 「果つる底なき」 昨年も候補にあがった方だが、見事に開花した、という印象を受けた。 銀行業務における情報の処理、銀行マンとしての主人公のプライド、事件、人物の動かし方、ある選考委員が「ひと皮むけた」と表現したが、その通りだろう。 受賞作とすることに異存はなかった。 おめでとうございます。 「12〈twelve Y. O〉」 この方の文章は、今年も私に鳥肌を生じさせた。 私は彼のファンである。 行き場のない男たち女たちの、勝ち目のない戦いへ身を投じていく、意地と哀しみを描かせて秀逸。 欲をいえば道具立てが今回、あまりに大げさすぎた。 しかし冒険小説界を震撼させるこの才能を、二年つづけて埋もれさせることは、選考会がためらった。 受賞おめでとう。 だがここに先輩、及び未来の商売敵として忠告をさせていただく。 作者の、安保と自衛隊に関するこだわりは、昨年今年と、二作つづけてゆるがぬその視点から了解した。 あるいはまだ述べ足りぬものがあるかもしれない。 しかしエンターテインメントの書き手としてより大きくなることを信じ、期待する者としては、今しばらくその情熱を抑制していただきたい。 巨大な戦闘を描く力は誰もが認める。 その迫力は、希有の才能。 だからこそ、次は卑小で卑近な戦いを描いて読ませてくれ。 昨年の候補作「川の深さは」に涙した読者として、これはお願いでもある。 もはや私は、作者の次作を待ち望んでいる。 閉じる 北方謙三 選考経過を見る 乱歩賞が、エンターテインメント小説の登竜門になってから、すでに久しい。 その伝統が新しい才能を集めていると、今回もしみじみと感じた。 候補作五本のうち、「カマクラ動乱」と「ビッグタウン」は、作品の傾向は違うが、ともに似たような欠点があると感じた。 小説として、筋肉が惰弱すぎるのである。 その結果どうなるかというと、説明が多くなる。 描写で、整合性をつけきれなくなる。 読んでいて臨場感が欠落してくるので、入りこめない。 小説の命がなにかということを、もう一度考え直すべきであろう。 「天馬誕生」という作品には、私は関心を持った。 傑作になり損なった力作である。 スリリングで、読んでいて恐怖に襲われるところもあるが、穴も目立つ。 全体としては緊密さを保っていて、よく書いたという印象を持った。 しかし拭い難い欠点があった。 舞台装置を大きくしたために、かえって物語が小さく縮んでいるのだ。 病的な情熱に憑かれた医者や研究者と、その被害に遭った母子の物語にすれば、読者に与える恐怖はもっと大きくなったはずだ。 組織など、書けば書くほど安っぽくなる。 物語の大きさは、装置の大きさではなく、人の心の中にあるのだということを、よく認識して、次に挑んでいただきたい。 受賞した二作は、ともに力量充分で、しかも作品の質がまるで違うため、甲乙をつけるのが非常に困難であった。 「12〈twelve Y. O〉」は、とにかく熱気と力で押し切った。 瑕瑾さえも、エネルギーで呑みこんで、読む者を圧倒する。 しかも主人公が、しょぼい落ちこぼれの自衛隊員というのが、秀抜でさえあった。 「果つる底なき」は、抑制の利いた、緊密で上質なミステリーとして成立していた。 文章に無駄がない。 すでに、プロの腕である。 この受賞二作が、乱歩賞の幅を示したのだと思えば、一作に絞れなかった悔いもない。 閉じる 高橋克彦 選考経過を見る 五篇の候補作のうち、結局はダブル受賞となった二作品が圧倒的に抜けていた。 他の三篇とて決して酷いレベルではない。 前年度候補作として残ったお二人のパワーに抗えなかったということだろう。 最初から二作受賞が許されるなら今回ほど楽な選考はなかったはずだが、やはり甘くはなかった。 可能であれば一本に絞ろうとの意見が席上で出されて、それから地獄の選考が再開された。 この場合、お二人とも前年の候補作品が選考委員のだれの頭にもあるので、さらに厄介となる。 強烈な個性と抜きんでた描写の光る「12」に対して、まったく独自の視点で切り込んで来る「果つる底なき」。 あまりにも極端に離れた世界なので判断がむずかしい。 そもそもこれは同列に扱って優劣を比較する作品ではないのかも知れない。 では、どちらがいわゆる乱歩賞的かと言うと、また迷う。 ミステリーぽさではもちろん「果つる底なき」が近いだろうが、本格でもなければ、探偵ものでもなく、警察ものでもない。 新しい分野としか言い様がない。 選考会はしばしば途方に暮れた。 乱暴な言い方となるが私は「二作受賞が許されないのであるなら、受賞作なし」とまで発言した。 どちらかを選んで片方を落とすということができなかったのである。 結果がこのようになって心底喜んでいる。 正反対の個性だが、お二人とも間違いなく多数の読者を獲得できる才能の持ち主だ。 どちらも驚異の目で迎えられるに違いない。 このような書き手が一挙に二人も出現したことはミステリー界にとっても刺激となろう。 ただ、惜しむらくは今年も優れた本格物が候補作に残ってこなかったことである。 この二作品と競うような正統的なミステリーを読んでみたかったような気がする。 閉じる 皆川博子 選考経過を見る 乱歩賞は新人賞なのだから、最初から完成度の高いものを求めるのは無理なのかもしれない、とは思う。 けれど、受賞作が後続の応募者の指針にもなることを思うと、私はハードルを低く設定することができない。 小説に対する私の好みが偏向していることはみとめるが、選考のときは、好みはわきにおいて、それぞれの作品の特質を汲み取るべくつとめているつもりだ。 それでも、<いずれ頑な資質を全面に出した由梨は聞く耳を持たず><意外なものを見つけた護の目が向けられたが><投資家たちをしぶつかせ>というような意味のとりにくい文章が数ページごとにあらわれる作品を、積極的に推すことはできない。 受賞作「12〈twelve Y. O〉」のことである。 しかし、他の四篇は、私の評価はさらに低い。 「12・・・・」は、緊迫した山場になると、文章の傷が消え、描写はすばらしい迫力をもって、たたみこんでくる。 こねくる余裕がなくなるのが、かえって好い結果を生んでいるのだろう。 文章の傷は修復可能だ。 「果つる底なき」は、他の選考委員のみなさん最高点をつけられ、私だけが評価が低かった。 銀行内部の事情、金の動きは、素人にもわかるように書かれている。 つまり、情報を読者に伝達する部分は丁寧なのである。 銀行問題はいま社会的に関心を持たれているので、たぶん、興味を持つ読者は多いことだろう。 しかし、情報部分をのぞくと、その他は凡庸であり陳腐である。 人物に個性も魅力もなく、意外性も物語の起伏もない。 この傾向は、候補作の多くにみられる。 「天馬誕生」は、面白くなりそうな期待を持たせながら、やはり、情報以外の部分は落ちる。 その落差がひどい。 取材や資料によって収集した情報は、物語に巧みに溶け込ませてこそ生きるのだということを、応募者は一考していただきたい。

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