いま は と て 天 の 羽衣 着る 折 ぞ 君 を あはれ と 思ひ 出 で ける。 古文の竹取物語の中でかぐや姫が「今はとて 天の羽衣 着るをりぞ 君をあはれ...

蜻蛉日記 (國文大觀)

いま は と て 天 の 羽衣 着る 折 ぞ 君 を あはれ と 思ひ 出 で ける

スポンサーリンク 『竹取物語』は平安時代(9~10世紀頃)に成立したと推定されている日本最古の物語文学であり、子ども向けの童話である 『かぐや姫』の原型となっている古典でもあります。 『竹取物語』は、 『竹取翁の物語』や 『かぐや姫の物語』と呼ばれることもあります。 『竹取物語』は作者不詳であり成立年代も不明です。 しかし、10世紀の『大和物語』『うつほ物語』『源氏物語』、11世紀の『栄花物語』『狭衣物語』などに『竹取物語』への言及が見られることから、10世紀頃までには既に物語が作られていたと考えられます。 このウェブページでは、『かくあまたの人を賜ひて留めさせ給へど、許さぬ迎へまうで来て~』の部分の原文・現代語訳(意訳)を記しています。 参考文献 『竹取物語(全)』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),室伏信助『新装・竹取物語』(角川ソフィア文庫),阪倉篤義 『竹取物語』(岩波文庫) 楽天広告• 『竹取物語』の原文・現代語訳23(現在位置) [古文・原文] かくあまたの人を賜ひて留めさせ給へど、許さぬ迎へまうで来て、取り率て(ゐて)まかりぬれば、口惜しく悲しきこと。 宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、かく煩はしき身にて侍れば。 心得ずおぼし召されつらめども。 心強く承らずなりにしこと、なめげなる者におぼしめしとどめられぬるなむ、心にとまり侍りぬる。 とて、 いまはとて 天の羽衣 着る折ぞ 君をあはれと 思ひ出でける とて、壺の薬添へて、頭中将(とうのちゅうじょう)を呼び寄せて奉らす。 中将に、天人取りて伝ふ。 中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし、かなしとおぼしつることも失せぬ。 この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ、車に乗りて百人ばかり天人具して昇りぬ。 [現代語訳] (帝への手紙の内容は)このように大勢の兵士を派遣して下さって、私を引き留めようとしておられますが、この国に居ることを許さない月の国の迎えがやって来て、私を連れて行こうとしますので、残念で悲しく思っています。 宮仕えをしないままになってしまったのも、このような煩わしい身の上だったからなのです。 勅命に逆らって物事の道理を心得ない者だと思われたでしょうけど。 強情に命令を受け入れなかったことで、無礼な者だと思われてその印象を残してしまったことが、今でも心残りとなっております。 と書いて、 今はもうこれまでと思い、(地上での人間らしい感情をすべて無くしてしまうことになる)天の羽衣を着るのですが、地上の帝であるあなたのことをしみじみと思い出しております。 と歌を詠んで、その手紙に壺の不死の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて帝に献上した。 天人が受け取って中将へと渡したのである。 中将が受け取ると、天人は素早く天の羽衣をかぐや姫に着せた。 すると、翁を愛おしい、可哀想だという心も消えてしまった。 この天の羽衣を着たかぐや姫は、人間らしい物思いの感情が無くなったので、飛ぶ車に乗って百人ほどの天人を引き連れて天へと昇っていった。 スポンサーリンク [古文・原文] その後、翁嫗、血の涙を流して惑へどかひなし。 あの書き置きし文を読みて聞かせけれど、『何せむにか命も惜しからむ。 誰が為にか。 何ごとも益なし』とて、薬も食はず、やがて起きもあがらで病み臥せり。 中将、人々引き具して帰り参りて、かぐや姫をえ戦ひ留めずなりぬる、こまごまと奏す。 薬の壺に御文添へて参らす。 広げて御覧じて、いとあはれがらせ給ひて、物も聞こしめさず、御遊びなどもなかりけり。 大臣上達部(かんだちべ)を召して、『何れの山か、天に近き』と問はせ給ふに、ある人奏す、『駿河の国にあるなる山なむ、この都も近く、天も近く侍る』と奏す。 これを聞かせ給ひて、 あふことも 涙に浮かぶ わが身には 死なぬ薬も 何にかはせむ かの奉る不死の薬に、また、壺具して御使ひに賜はす。 勅使には、調石笠(つきのいわかさ)といふ人を召して、駿河の国にあなる山の頂に持てつくべき由仰せ給ふ。 峰にてすべきやう教へさせ給ふ。 御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべき由仰せ給ふ。 その由承りて、兵(つわもの)どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を『ふじの山』とは名付けける。 その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ言ひ伝へたる。 [現代語訳] その後、おじいさんとおばあさんは、血の涙を流して嘆き悲しんだが、どうしようもない。 かぐや姫が書き残していった手紙を読んで聞かせたけど、『どうしてこの命を惜しむことがあろうか。 誰のためにか。 何をしても意味がない。 』と言って、薬も飲まず、起き上がらなくなって病気になり寝込んでしまった。 中将は、翁の屋敷から兵士たちを引き上げさせ、かぐや姫を引き止めるために戦おうとしたが戦うことができなかった事情を、細かく詳細に帝へと報告した。 不死の薬の壺に、かぐや姫の手紙を添えて献上した。 帝は手紙を広げて読んで、とても気持ちを揺さぶられて、食事も喉を通らず、音楽や舞踊の遊びもしなかった。 帝は大臣・高官を呼び寄せて、『どこの山が一番天に近いのか。 』と尋ねると、その中の一人が、『駿河国にあるという山が、この都にも近くて、天にも近くてございます。 』とお答えした。 これを聞いた帝は、 もうかぐや姫に会うことができず、流れる涙に浮かんでいるようなわが身にとって、不死の薬などがいったい何の役に立つというのだろうか。 帝はかぐや姫が送ってくれた不死の薬の壺に手紙を添えて、使者に渡してしまった。 調石笠という人を呼び出して勅使に任命し、駿河国にあるという高い山にこの薬の壺を持っていくようにと命令した。 そして山頂ですべきことを教えたのである。 手紙と不死の薬の壺とを並べて、火をつけて燃やすようにと命じた。 命令を承った調石笠が、大勢の兵士を引き連れて山に登ったので、その山を『富士の山(大勢の兵士に富んでいる山)』と名付けたのである。 山頂で焼いた煙は、今もまだ雲の中に立ち昇っていると言い伝えられている。

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伊勢物語~原文全文・比較対照

いま は と て 天 の 羽衣 着る 折 ぞ 君 を あはれ と 思ひ 出 で ける

「黒=原文」・ 「青=現代語訳」 解説・品詞分解はこちら 天人の中に、持たせたる箱あり。 天の羽衣入れり。 またあるは、不死の薬入れり。 天人の中の(一人に)持たせている箱がある。 (その中に)天の羽衣が入っている。 またある箱には、不死の薬が入っている。 一人の天人言ふ、「壺なる御薬奉れ。 穢(けが)き所の物きこしめしたれば、御心地悪しからむものぞ。 」とて、 一人の天人が言うことには、「壺にあるお薬をお飲みください。 けがれた所のものを召しあがったので、ご気分が悪いことでしょうよ。 」といって、 持て寄りたれば、いささかなめたまひて、少し形見とて、脱ぎ置く衣に包まむとすれば、ある天人、包ませず。 (天人が壺を)持って寄って来たので、(かぐや姫は)少しだけおなめになって、(薬の)少しを形見として、脱ぎ置いた衣に包もうとすると、そこにいる天人が包ませない。 御衣(みぞ)を取り出でて着せむとす。 その時に、かぐや姫、「しばし待て。 」と言ふ。 (天人が)天の羽衣を取り出して(かぐや姫に)着せようとする。 その時に、かぐや姫が「ちょっと待ちなさい。 」と言う。 「衣着せつる人は、心異になるなりといふ。 もの一言、言ひ置くべきことありけり。 」と言ひて、文書く。 「天の羽衣を着てしまった人は心が(地上の人とは)異なったものになるといいます。 何か一言、言い残しておかなければならないことがありますよ。 」と言って、手紙を書く。 天人、「遅し。 」と、心もとながりたまふ。 天人は、「遅くなる。 」と、じれったく思いなさる。 かぐや姫、「もの知らぬこと、なのたまひそ。 」とて、いみじく静かに、朝廷(おほやけ)に御文奉りたまふ。 あわてぬさまなり。 かぐや姫は、「もの分りのないことをおっしゃいますな。 」と言って、たいそう静かに帝にお手紙を差し上げなさる。 落ち着いた様子である。 「かくあまたの人を賜ひてとどめさせたまへど、許さぬ迎へまうで来て、取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。 「このように多くの人をお遣わしになって、(私を)お引きとめなさいますけれども、(それを)許さない迎えが参りまして、連れて行ってしまうので、残念で悲しいことです。 宮仕へつかうまつらずなりぬるも、かくわづらはしき身にてはべれば、心得ず思しめされつらめども、 宮仕えをし申し上げぬままになってしまったのも、このように面倒な身の上でございますので、納得できないとお思いになっておられるでしょうが、 心強く承らずなりにしこと、なめげなる者に思しめしとどめられぬるなむ、心にとまりはべりぬる。 」とて、 心を強くして(帝のお申し出を)お受けしないままになってしまったこととで、無礼なものだと(帝の)お心にとどめられてしまうことが、心残りでございます。 」と書いて、 今はとて 天の羽衣 着るをりぞ 君をあはれと 思ひ出でける 今はもうお別れだと、天の羽衣を着る時になって、あなた(帝)のことをしみじみと思い出しております。 とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて奉らす。 中将に天人取りて伝ふ。 と書いて、壺の薬を添えて、頭の中将を近くに呼んで、(帝に)献上させる。 中将に(天人がかぐや姫から)受け取って渡す。 中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せたてまつりつれば、翁を、いとほしく、かなしと思しつることも失せぬ。 中将が受け取ったので、(天人が)さっと天の羽衣を(かぐや姫に)お着せ申し上げたので、翁を、気の毒だ、かわいそうだとお思いになったことも消え失せた。 この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。 この衣を着た人は、人としての悩みなどが無くなってしまうので、(かぐや姫は)車に乗って、百人ほどの天人を連れて、点に昇ってしまった。 lscholar.

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575筆まか勢

いま は と て 天 の 羽衣 着る 折 ぞ 君 を あはれ と 思ひ 出 で ける

うゐかぶりして。 奈良の京春日の里に、 ならの京、かすがのさとに、 ならの京かすがの里に しるよしして、狩りに往にけり。 しるよしゝて、かりにいにけり。 しるよしして。 かりにいきけり。 その里に、いとなまめいたる女 そのさとに、いとなまめいたるをむな 其さとに。 いともなまめきたる女 はらから住みけり。 はらからすみけり。 ばら[女はらからイ]すみけり。 この男かいまみてけり。 このおとこかいまみてけり。 かのおとこかいま見てけり。 思ほえず、ふる里に おもほえずふるさとに おもほえずふるさとに。 いとはしたなくてありければ、 いとはしたなくてありければ、 いともはしたなくありければ。 心地まどひにけり。 心地まどひにけり。 心ちまどひにけり。 男の、着たりける狩衣の おとこのきたりけるかりぎぬの 男きたりけるかりぎぬの 裾を切りて、 すそをきりて、 すそをきりて。 歌を書きてやる。 うたをかきてやる。 うたをかきてやる。 その男、 そのおとこ、 そのおとこ 信夫摺の狩衣をなむ着たりける。 しのぶずりのかりぎぬをなむきたりける。 しのぶずりのかりぎぬをなんきたりける。 となむをいづきていひやりける。 となん。 をいつぎてやれりける。 ついで おもしろきことともや思ひけむ。 ついで おもしろきことゝもやおもひけむ。 となんいひつぎてやれりける おもしろきことゝや。 といふ哥のこゝろばへ也。 といふうたのこゝろばへなり。 昔人は、 むかし人は、 むかし人は。 かくいちはやき みやびをなむしける。 かくいちはやき、みやびをなむしける。 かくいちはやきみやびをなんしける。 むかし、おとこありけり。 昔男ありけり。 みやこのはじまりける時。 奈良の京は離れ、 ならの京はゝなれ、 ならの京ははなれ。 この京は この京は 此京は 人の家まだ定まらざりける時に、 人のいゑまださだまらざりける時に、 人の家 いまださだまらざりける時。 西の京に女ありけり。 ゝしの京に女ありけり。 西京に女有けり。 その女、世人にはまされりけり。 その女世人にはまされりけり。 其女世の人にはまさりたりけり。 その人、 その人、 かたちよりは心なむまさりたりける。 かたちよりはこゝろなむまさりたりける。 かたちよりは心なんまされりける。 ひとりのみもあらざりけらし。 ひとりのみもあらざりけらし、 人そのみも [ひとりのみにもイ]あらざりけらし。 それをかのまめ男、 それをかのまめおとこ、 それをかのまめ男 うち物語らひて、 うちものがたらひて、 うち物かたらひて。 帰り来て、いかゞ思ひけむ、 かへりきていかゞおもひけむ、 かへりきていかが思ひけん。 時はやよひのついたち、 時はやよひのついたち、 時は彌生の朔日。 雨そほふるにやりける。 あめそをふるにやりける。 雨うちそぼふりけるにやりける。 むかし、おとこありけり。 昔男ありけり。 懸相じける女のもとに、 けさうじける女のもとに、 けさうしける女のもとに。 ひじき藻といふものをやるとて、 ひじきもといふ物をやるとて、 ひじきといふものをやるとて。 まだ帝にも仕うまつりたまはで、 まだみかどにもつかうまつりたまはで、 いまだみかどにも。 つかうまつらで。 たゞ人にておはしましける時のことなり。 たゞ人にておはしましける時のことなり。 たゞ人にておはしけるときのことなり。 第四段 西の対(の女) むかし、ひんがしの五条に、 むかし、ひむがしの五条に、 昔東五條に。 にしのたいに、すむ人ありけり。 西の對にすむ人ありけり。 それをほいにはあらで、 それをほいにはあらで、 それをほいにはあらでゆきとぶらふ人。 こころざし深かりける人、 心ざしふかゝりける人、 こゝろざしふかゝりけるを。 ゆきとぶらひけるを、 ゆきとぶらひけるを、 正月の十日ばかりのほどに、 む月の十日許のほどに、 む月の十日あまり。 ほかにかくれにけり。 ほかにかくれにけり。 ほかにかくれにけり。 ありどころは聞けど、 ありどころはきけど、 ありどころはきけど。 人のいき通ふべき所にも 人のいきかよふべき所にも 人のいきよるべきところにも あらざりければ、 あらざりければ、 あらざりければ。 なほうしと思ひつゝなむありける。 なをうしとおもひつゝなむ有ける。 なをうしとおもひつゝなんありける。 またの年の睦月に 又の年のむ月に、 又のとしのむ月に。 梅の花ざかりに、 むめのはなざかりに、 梅花さかりなるに。 去年を恋ひていきて、 こぞをこひていきて、 こぞを思ひて。 立ちて見、ゐて見、見れど、 たちて見、ゐて見ゝれど、 かのにしのたいにいきて見れど。 去年に似るべくもあらず。 こぞにゝるべくもあらず。 こぞににるベうもあらず。 うち泣て、あばらなる板敷に、 あばらなるいたじきに あばらなるいたじきに。 月のかたぶくまでふせてりて、 月のかたぶくまでふせりて、 月のかたむくまでふせりて。 去年を思ひいでてよめる。 こぞを思いでゝよめる。 こぞをこひて讀る。 夜のほのぼのと明くるに、 よのほのぼのとあくるに、 ほの〴〵とあくるに。 泣く泣くかへりにけり。 なくなくかへりにけり。 なく〳〵かへりにけり。 むかし、おとこ有けり。 昔男有けり。 ひんがしの五条わたりに ひむがしの五条わたりに、 ひんがしの五條わたりに。 いと忍びていきけり。 いとしのびていきけり。 いとしのびいきけり。 みそかなる所なれば、 みそかなるところなれば、 しのぶ所なれば 門よりもえ入らで、 かどよりもえいらで、 かどよりもいらで。 わらべのふみあけたる わらはべのふみあけたる 築泥のくづれより、通ひけり。 ついひぢのくづれよりかよひけり。 ついぢのくづれよりかよひけり。 人しげくもあらねど、 ひとしげくもあらねど、 人たかしくも[しげくもイ]あらねど。 たび重なりければ、 たびかさなりければ、 たびかさなりければ。 あるじ聞きつけて、 あるじきゝつけて、 あるじきゝつけて。 その通ひ路に、 そのかよひぢに、 そのかよひぢに。 夜毎に人をすゑて、まもらせければ、 夜ごとに人をすへてまもらせければ、 夜ごとに人をすへてまもらせければ。 いけどもえ逢はでかへりけり。 いけどえあはでかへりけり。 かのおとこえあはでかへりにけり。 さてよめる。 さてよめる。 さてつかはしける。 いといたう心やみけり。 いといたくこゝろやみけり。 いといたうえんじける。 あるじゆえしてけり。 あるじゆるしてけり。 あるじゆるしてけり。 二条の后に忍びてまゐりけるを、 二条のきさきにしのびてまいりけるを、 世の聞えありければ、 世のきこえありければ、 せうとたちのまもらせ給ひけるとぞ。 せうとたちのまもらせたまひけるとぞ。 昔おとこありけり。 昔男有けり。 女のえ得まじかりけるを、 女のえうまじかりけるを、 女のえあふまじかりけるを。 年を経てよばひわたりけるを、 としをへてよばひわたりけるを、 年をへていひわたりけるに。 からうじて からうじて からうじて女のこゝろあはせて。 盗み出でて、いと暗きにきけり。 ぬすみいでゝ、いとくらきにきけり。 ぬすみて出にけり。 芥河といふ河を率ていきければ、 あくた河といふかはをゐていきければ、 あくた河といふ河をゐていきければ。 草のうへにおきたりける露を、 くさのうへにをきたりけるつゆを、 草のうへにをきたる露を。 「かれは何ぞ」となむ男に問ひける。 かれはなにぞとなむおとこにとひける。 かれはなにぞとなん男にとひける。 ゆくさきおほく、夜もふけにければ、 ゆくさきおほく、夜もふけにければ、 ゆくさきはいととほく。 夜も更ければ。 鬼ある所とも知らで、 おにある所ともしらで、 おにある所ともしらで。 神さへいといみじう鳴り、 神さへいといみじうなり、 雨いたうふり。 雨もいたう降りければ、 あめもいたうふりければ、 神さへいといみじうなりければ。 あばらなる蔵に、 あばらなるくらに、 あばらなるくらの有けるに。 女をば奥におし入れて、 女をばおくにをしいれて、 女をばおくにおしいれて。 男、弓、やなぐひを負ひて、 おとこ、ゆみ、やなぐひをおひて、 男は弓やなぐひをおひて。 戸口にをり。 とぐちにをり。 とぐちに。 はや夜も明けなむ はや夜もあけなむ はや夜もあけなむ と思ひつゝゐたりけるに、 と思つゝゐたりけるに、 とおもひつゝゐたりけるほどに。 鬼一口に食ひてけり。 おにはやひとくちにくひてけり。 鬼はや女をばひとくちにくひてけり。 「あなや」といひけれど、 あなやといひけれど、 あゝやといひけれど。 神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。 神なるさはぎにえきかざりけり。 神のなるさはぎにえきかざりけり。 やうやう夜も明けゆくに、 やうやう夜もあけゆくに、 やう〳〵夜の明行を見れば。 見れば、率て来し女もなし。 見ればゐてこし女もなし。 ゐてこし女なし。 足ずりをして泣けどもかひなし。 あしずりをしてなけどもかひなし。 あしずりしてなけどかひなし。 いとこの女御の御もとに、 いとこの女御の御もとに、 御いとこの女御のもとに。 仕うまつるやうにて つかうまつるやうにて つかうまつり[る歟]人のやうにて。 ゐ給へりけるを、 ゐたまへりけるを、 ゐ給へりけるを。 かたちのいとめでたくおはしければ、 かたちのいとめでたくおはしければ、 かたちのいとめでたうおはしければ。 盗みて負ひて出でたりけるを、 ぬすみておひていでたりけるを、 ぬすみていでたりけるを。 御せうと堀河の大臣、 御せうとほりかはのおとゞ、 御せうとのほり河の大將もとつねの。 太郎国経の大納言、 たらうくにつねの大納言、 くにつねの大納言などの。 まだ下臈にて内裏へまゐり給ふに、 まだ下らうにて内へまいりたまふに、 いまだげらうにて內へまいり給ふに。 いみじう泣く人あるを聞きつけて、 いみじうなく人あるをきゝつけて、 いみじうなく人のあるを聞つけて。 とゞめてとり返し給うてけり。 とゞめてとりかへしたまうてけり。 とりかへしたまひてけり。 それをかく鬼とはいふなりけり。 それをかくおにとはいふなり。 それをかくおにとはいへる也。 まだいと若うて まだいとわかうて、 いまだいとわかうて。 后のたゞにおはしける時とや。 きさきのたゞにおはしましける時とや。 たゞにきさひのおはしけるときとや。 むかし、おとこありけり。 昔男ありけり。 京にありわびて東にいきけるに、 京にありわびて、あづまにいきけるに、 京にありわびて。 あづまへゆきけるに。 伊勢・尾張のあはひの海づらを行くに、 伊勢おはりのあはひのうみづらをゆくに、 伊勢おはりのあはひの海づらをゆくに。 浪のいと白くたつを見て、 なみのいとしろくたつを見て、 なみのいとしろくたちかへるを見て。 おもふ事なきならねば。 おとこ。 となむよめりける。 むかし、おとこありけり。 むかし男ありけり。 そのおとこ。 身はようなきものに思ひなして。 京や住み憂かりけむ、 京やすみうかりけむ、 京にはをらじ。 あづまのかたにゆきて あづまのかたにゆきて、 あづまのかたに 住み所もとむとて、 すみ所もとむとて、 すむべき所もとめにとてゆきけり。 ともとする人、ひとりふたりしてゆきけり。 ともとする人ひとりふたりしてゆきけり。 信濃の国、浅間の嶽に、 しなのゝくに、あさまのたけに しなののくにあさまのたけに。 けぶりの立つを見て、 けぶりのたつを見て、 けぶりたつを見て。 むかし、おとこありけり。 むかし男ありけり。 その男、身をえうなきものに思ひなして、 そのおとこ、身をえうなきものに思なして、 そのおとこ。 身はようなきものに思ひなして。 「京にはあらじ。 京にはあらじ、 京にはをらじ。 あづまの方に住むべき国もとめに」 あづまの方にすむべきくにもとめに あづまのかたにすむべき所もとめに とて往きけり。 とてゆきけり。 とてゆきけり。 もとより友とする人、 もとよりともとする人、 もとよりともする人。 ひとりふたりしていきけり。 ひとりふたりしていきけり。 ひとりふたりして。 もろともにゆきけり。 道知れる人もなくてまどひいきけり。 みちしれる人もなくて、まどひいきけり。 みちしれる人もなくて。 まどひゆきけり。 三河の国 みかはのくに、 みかはのくに 八橋 といふ所にいたりぬ。 やつはしといふ所にいたりぬ。 やつはしといふ所にいたりぬ。 そこを八橋といひけるは、 そこをやつはしといひけるは、 そこやつはしといふことは。 水ゆく河のくもでなれば、 水ゆく河のくもでなれば、 水のくもでにながれわかれて。 橋を八つわたせるによりてなむ はしをやつわたせるによりてなむ、 木八わたせるによりてなむ 八橋といひける。 やつはしとはいひける。 八橋とはいへる。 その沢のほとりの木のかげにおり居て、 そのさはのほとりの木のかげにおりゐて、 その澤のほとりに。 木かげにおりゐて。 餉くひけり。 かれいひくひけり。 かれいひくひけり。 その沢に、 そのさはに その澤に 燕子花いとおもしろく咲たり。 かきつばたいとおもしろくさきたり。 かきつばたいとおもしろくさきたり。 それを見て、 それを見て、 それを見て。 都いとこひしくおぼえけり。 ある人のいはく、 ある人のいはく、 さりけれぱある人。 「かきつばたといふ五文字を かきつばたといふいつもじを かきつばたといふいつもじを。 句のかみにすゐて、旅の心をよめ」 くのかみにすへて、たびのこゝろをよめ、 くのかしらにすへて。 たひの心よめ といひければ、よめる。 といひければよめる。 といひければ。 ひとの人よめり。 みな人餉のうへに涙おとして みなひと、かれいひのうへになみだおとして みな人かれいひのうへに淚落して ほとびにけり。 ほとびにけり。 ほとびにけり。 行き行きて駿河の国にいたりぬ。 ゆきゆきて、するがのくにゝいたりぬ。 ゆき〳〵て。 するがの國にいたりぬ。 宇津の山にいたりて、 うつの山にいたりて、 うつの山にいたりて。 わが入らむとする道は わがいらむとするみちは、 わがゆくすゑのみちは。 いと暗う細きに、 いとくらうほそきに、 いとくらくほそきに。 蔦かへでは茂り、もの心ぼそく、 つた、かえではしげり、ものごゝろぼそく、 つたかづらはしげりて。 もの心ぼそう。 すゞろなるめを見ることと思ふに、 すゞろなるめを見ることゝおもふ、 すゞろなるめを見ることとおもふに。 修行者あひたり。 す行者あひたり。 す行者あひたり。 「かゝる道はいかでかいまする」 かゝるみちはいかでかいまする、 かゝるみちには。 いかでかおはする といふを見れば見し人なりけり。 といふを見れば見し人なりけり。 といふに。 見れば見し人なりけり。 京に、その人の御もとにとて、 京に、その人の御もとにとて、 京にその人のもとにとて。 ふみかきてつく。 ふみかきてつく。 文かきてつく。 五月のつごもりに、雪いとしろう降れり。 さ月のつごもりに、雪いとしろうふれり。 さ月つごもり雪いとしろくふりたり。 こゝにたとへば、 こゝにたとへば、 上はひろく。 しもはせばくて。 大笠のやうになん有ける。 比叡の山を二十ばかり ひえの山をはたち許 高さはひえの山をはたちばかり。 重ねあげたらむほどして、 かさねあげたらむほどして、 かさねあげたらん なりは塩尻のやうになむありける。 なりはしほじりのやうになむありける。 やうになん有ける。 なほゆきゆきて なをゆきゆきて、 なをゆき〳〵て。 武蔵の国と下つ総の国 との中に、 むさしのくにとしもつふさのくに との中に、 むさしの國としもつふさの國 と。 ふたつがなかに。 いとおほきなる河あり。 いとおほきなる河あり。 いとおほきなる河あり。 それを角田河といふ。 それをすみだ河といふ。 その河の名をば。 すみだ川となんいひける。 その河のほとりにむれゐて、思ひやれば、 その河のほとりにむれゐておもひやれば、 その河のほとりに。 むれゐておもひやれば。 かぎりなく、遠くも来にけるかな、 かぎりなくとをくもきにけるかな かぎりなくとをく もきにけるかな とわびあへるに、 とわびあへるに、 とわびをれば。 渡守、 わたしもり、 わたしもり。 「はや舟に乗れ。 日も暮れぬ」といふに、 はやふねにのれ、日もくれぬ、といふに、 はや舟にのれ。 日もくれぬといふに。 乗りて渡らむとするに、 のりてわたらむとするに、 のりてわたらんとするに。 みな人ものわびしくて、 みなひと、ものわびしくて、 みな人物わびしくて。 京に思ふ人なきにしもあらず。 京におもふ人なきにしもあらず。 京に思ふ人なきにしもあらず。 さる折りしも、 さるおりしも、 さるおりに 白き鳥の嘴と脚とあかき、 しろきとりのはしとあしとあかき、 しろき鳥の。 はしとあしとあかきが。 鴫のおほきさなる、 しぎのおほきさなる、 しぎのおほきさなる。 水のうへに遊びつゝ魚をくふ。 水のうへにあそびつゝいをゝくふ。 水のうへにあそびつゝ。 いををくふ。 京には見えぬ鳥なれば、 京には見えぬとりなれば、 京には見えぬとりなれば。 みな人見知らず。 みな人、見しらず。 人々みしらず。 渡守に問ひければ、 わたしもりにとひければ、 わたしもりにとへば。 「これなむ都鳥」といふを聞きて、 これなむ宮こどり、といふをきゝて、 これなむ都鳥と申といふをきゝて。 とよめりければ、ふねこぞりてなきにけり。 とよめりければ。 舟人こぞりてなきにけり。 その河渡り過て。 都に見しあひて物がたりして。 ことづてやあるといひければ。 武蔵の国までまどひありきけり。 むさしのくにまでまどひありきけり。 むさしの國まどひありきけり。 さてその国にある女をよばひけり。 さて、そのくにゝある女をよばひけり。 その國なる女をよばひけり。 父はこと人にあはせむといひけるを、 ちゝはこと人にあはせむといひけるを、 父はこと人にあはせんといひけるに。 母なむあてなる人に心つけたりける。 はゝなむあてなる人に心つけたりける。 母なんあてなる人に心つけたりける。 父はなほびとにて、 ちゝはなお人にて、 父はたゞ人にて。 母なむ藤原なりける。 はゝなむふぢはらなりける。 母なん藤原なりける。 さてなむあてなる人にと思ひける。 さてなむあてなる人にとおもひける。 さてなんあてなる人にとはおもひける。 このむこがねによみておこせたりける。 このむこがねによみてをこせたりける。 此むこがねに。 よみてをこせたる。 住む所なむ すむところなむ、 すむさとは。 むさしのくに 入間の郡み吉野の里なりける。 いるまのこほり、みよしのゝさとなりける。 いるまのこほりみよしのの里なり。 むこがねかへし。 人の国にても、 となむ。 人のくにゝても、 人の國にても。 なほかゝることなむやまざりける。 猶かゝる事なむ、やまざりける。 かゝることは。 たえずぞありける。 東へゆきけるに。 友だちどもに、道よりいひおこせける。 ともだちどもに、みちよりいひをこせける。 友だちに道よりをこせける。 むかし、おとこ有けり。 むかしおとこありけり。 人のむすめを盗みて、 人のむすめをぬすみて 女をぬすみて。 武蔵野へ率てゆく程に、 武蔵野へゐてゆくほどに、 むさしの國へ行ほどに。 盗人なりければ、 ぬす人なりければ、 ぬす人成ければ。 国の守にからめられにけり。 くにのかみにからめられにけり。 くにのつかさからめければ。 女をば草むらのなかにおきて逃げにけり。 女をばくさむらの中にをきて、にげにけり。 女をば草むらの中にをきてにげにけり。 道くる人、 みちくる人、 みちゆく人。 「この野は盗人あなり」 このゝはぬす人あなり 此野はぬす人あり とて火つけむとす。 とて、火つけむとす。 火をつけんとするに。 女わびて、 女、わびて、 女わびて。 女をばとりて、ともに率てけり。 女をばとりて、ともにゐていにけり この女をばとりて。 ともにゆきにけり。 武藏なる男。 京なる女のもとに、 京なる女のもとに、 京なる女のもとに。 「聞ゆれば、恥し、 聞ねば苦し」と書きて、 きこゆればゝづかし、 きこえねばくるし、とかきて、 きこゆればはづ・[か]し。 きこ・[え]ねばくるしとかきて。 上書に「武蔵鐙(あぶみ)」と書きて、 おこせてのち、 うはがきにむさしあぶみとかきて、 をこせてのち、 うはがきにむさしあぶみとのみ書て。 のち おともせずなりにければ、 をともせずなりにければ、 をともせずなりにければ。 京より女、 京より女、 京より女。 堪へがたき心地しける。 たへがたき心地しける。 たへがたきこゝちしけり。 陸奥の国にすゞろに行きいたりけり。 みちのくにゝ、すゞろにゆきいたりにけり。 みちのくにに。 すゞろにいたりにけり。 そこなる女、 そこなる女、 そこなる女。 京のひとはめづらかにおぼへけむ、 京の人はめづらかにやおぼえけむ、 京の人をば。 めづらやかにかおもひけん。 せちに思へる心なむありける。 せちにおもへる心なむありける。 せちにおもへるけしきなん見えける。 さてかの女、 さてかの女、 さてかの女。 うたさへぞひなびたりける。 うたさへぞひがめりける。 さすがにあはれとや思ひけむ、 さすがにあはれとやおもひけむ、 さすがにあはれとやおもひけん。 いきてねにけり。 いきてねにけり。 いきてねにけり。 夜ふかくいでにければ、女、 夜ふかくいでにけれは、女 夜ふかく出にければ女。 おとこ京へなんまかるとて。 よろこぼひて、 よろこぼひて、 よろこびて 「おもひけらし」とぞいひ居りける。 おもひけらし、とぞいひをりける 思ひけり〳〵とぞいひける。 みちの國へありきけるに。 なでふ事なき人のめに通ひけるに、 なでうことなき人のめにかよひけるに、 なでうことなき人のむすめにかよひけるに。 あやしうさやうにて あやしうさやうにて あやしくさやうにて あるべき女ともあらず見えければ、 あるべき女ともあらず見えければ、 あるべき女にはあらず見えければ。 さるさがなきえびすごゝろを見ては、 さるさがなきえびす心を見ては、 さるさがなきえびす所にては。 いかゞはせむは。 いかゞはせむは。 いかゞはせん。 むかし、きのありつねといふ人ありけり。 むかし。 きのありつねといふ人有けり。 三代の帝に仕うまつりて みよのみかどにつかうまつりて、 みよのみかどにつかへて。 時にあひけれど、 時にあひけれど、 ときにあひたりけれど。 のちは世かはり時うつりにければ、 のちは世かはり、時うつりにければ、 のちには世かはり時うつりにければ。 世の常の人のごともあらず。 世のつねの人のごともあらず、 よのつね時うしなへる人になりにけり。 人がらは心うつくしく、 人がらは、心うつくしう 人がらは 心うつくしう。 あてはかなることを好みて、 あてはかなることをこのみて、 あてなることをこのみて。 こと人にもにず。 ことに人にもにず、 こと人にもにず。 貧しくへても、 なほ昔よかりし時の心ながら、 まづしくへても、 猶昔よかりし時の心ながら、 よのわたらひ心もなくまづしくて。 猶むかしよかりし時の心ながら。 ありわたりけるに。 世の常のこともしらず。 世のつねのこともしらず。 よのつねのこともしらず。 としごろあひなれたる妻、 としごろあひなれたるめ、 としごろありなれたる女も。 やうやうとこ離れて、 やうやうとこはなれて、 やう〳〵とこはなれて。 つひに尼になりて、 つゐにあまになりて、 つゐにあまになりて。 姉のさきだちて あねのさきだちて あねのさきだちて なりたるところへ行くを、男 なりたるところへゆくを、おとこ、 あまになりにけるがもとへゆく。 おとこ。 まことにむつまじきことこそなかりけれ、 まことにむつまじき事こそなかりけれ、 まことにむつまじき事こそなかりけれ。 いまはとゆくを いまはとゆくを、 いまはとてゆくを。 いとあはれと思ひけれど、 いとあはれと思けれど、 いと哀とはおもひけれど。 貧しければ、するわざもなかりけり。 まづしければするわざもなかりけり。 まづしければ。 するわざもなかりけり。 思ひわびて、 おもひわびて、 思ひわびて。 ねむごろに ねむごろに ねんごろに あひ語らひける友だちのもとに、 あひかたらひけるともだちのもとに、 かたらひけるともだちに。 「かうかう今はとてまかるを、 かうかういまはとてまかるを、 かう〳〵今はとてまかるを。 何事もいさゝかなることもえせで、 なにごともいさゝかなることもえせで、 何事もいさゝかの事もせで。 つかはすこと」と書きて、おくに、 つかはすことゝかきて、おくに、 つかはすこととかきて。 おくに。 いとあはれと思ひて、 いとあはれとおもひて、 いとあはれとおもひて。 夜のものまでおくりてよめる。 よるのものまでをくりてよめる。 女のさうぞくを一具をくるとて。 よろこびにそゑて。 年比音信ざりける人の。 桜の盛りに見に来たりければ、あるじ、 さくらのさかりに見にきたりければ、あるじ 櫻見に來たりければ。 あるじ。 むかし、まな心ある女ありけり。 むかし。 なま心ある女ありけり。 男ちかうありけり。 おとこちかうありけり。 男とかういひけり。 女、歌よむ人なりければ、心みむとて、 女、うたよむ人なりければ、心見むとて、 女歌よむ人なりければ。 こゝろみんとて 菊の花のうつろへる折りて、 男のもとへやる。 きくの花のうつろへるをゝりて、 おとこのもとへやる。 むめを折て やる。 おとこ、しらずによみによみける。 おとこしらず。 よみによみけり。 宮仕へしける女の方に、 みやづかへしける女のかたに、 みやづかへしける女・[の方にイ] 御達なりける人をあひ知りたりける。 ごたちなりける人をあひしりたりける。 ごたちなりける人をあひしれりけり。 ほどもなくかれにけり。 ほどもなくかれにけり。 ほどもなくかれにけり。 おなじ所なれば、 おなじ所なれば、 おなじところなりければ。 女の目には見ゆるものから、 女のめには見ゆるものから、 さすがに女のめには見ゆるものから。 男はあるものかと思ひたらず。 女、 おとこはある物かとも思たらず、女、 男はあるものにもおもひたらねば。 をんな。 おとこ。 また男ある人となむいひける。 またおとこなる人なむといひける。 あまた男ある女になむありける。 大和にある女を見て やまとにある女を見て、 やまとにある女を よばひてあひにけり。 よばひてあひにけり。 よばひて。 あひにけり。 さてほど経て、 さてほどへて、 さてほどへて。 宮仕へする人なりければ、 宮づかへする人なりければ、 宮づかへしける人なりければ。 かへりくる道に、三月ばかりに、 かへりくるみちに、やよひばかりに、 かへりけるみちに。 やよひばかりに かへでもみぢの、 かえでのもみぢの 山にかえでのもみぢの。 いとおもしろきを折りて、 いとおもしろきをゝりて、 いとおもしろきをおりて。 女のもとに道よりいひやる。 女のもとにみちよりいひやる。 すみし女のもとにみちより。 京にきつきてなむ 返事は京にきつきてなむ、 返事は京にいきつきてなん。 もてきたりける。 もてきたりける。 もてきたりける。 いとかしこく思ひかはして いとかしこくおもひかはして、 いとかしこう思ひかはして。 こと心なかりけり。 こと心なかりけり。 ことごゝろなかりけるを。 さるを、いかなる事かありけむ、 さるをいかなる事かありけむ、 いかなることか有けむ。 いさゝかなることにつけて、 いさゝかなることにつけて、 はかなきことにことづけて。 世の中をうしと思ひて、 世中をうしと思て、 よの中をうしと思ひて。 出でていなむと思ひて、 いでゝいなむと思て、 いでていなんとて。 かかる歌をなむよみて、 かゝる哥をなむよみて、 かゝる歌なん ものに書きつけける。 ものにかきつけゝる。 物にかきつけゝり。 とよみをきて、いでゝいにけり。 とよみて。 をきて出ていにけり。 この女かく書きおきたるを、 この女かくかきをきたるを、 この男かくかきをきたるをみて。 けしう、心おくべきことを覚えぬを、 けしう心をくべきこともおばえぬを、 心うかるべきこともおぼえぬを。 なにによりてかかゝらむと、 なにゝよりてかかゝらむと 何によりてならむ。 いといたう泣きて、 いといたうなきて、 いといたううちなきて。 いづ方に求めゆかむと、 いづ方にもとめゆかむと いづ方にもとめゆかんと。 門にいでて、とみかうみ、見けれど、 かどにいでゝ、と見かう見ゝけれど、 かどに出てとみかうみ見けれど。 いづこをはかりとも覚えざりければ、 いづこをばかりともおぼえざりければ、 いと[づイ]こをはかともおぼえざりければ。 かへりいりて、 かへりいりて、 かへり入て。 といひてながめをり。 この女、いとひさしくありて、 この女いとひさしくありて、 この女いとひさしくありて。 念じわびてにやありけむ。 ねむじわびてにやありけむ、 ねんじかねてにやあらん。 いひおこせたる。 いひをこせたる。 かくいひをこしたり。 おとこ。 おとこ。 おのが世々になりにければ、 をのが世ゝになりにければ、 をのが世々になりにければ。 うとくなりにけり。 うとくなりにけり。 うとく成にけり。 第22段 千夜を一夜 むかし、はかなくて絶えにけるなか、 むかし、はかなくてたえにけるなか、 むかしはかなくてたえにける中。 さればよと思ひて。 とはいひけれど、そのよいにけり。 とはいひけれど。 その夜いにけり。 いにしへゆくさきのことどもなどいひて、 いにしへゆくさきのことゞもなどいひて、 いにしへゆくさきの事どもぞおもふ。 いにしへよりもあはれにてなむかよひける。 いにしへよりも哀にてなむかよひける。 第23段 筒井筒 むかし、 昔、 むかし。 田舎わたらひしける人の子ども、 ゐなかわたらひしける人のこども、 いなかわたらひしける人の子ども。 井のもとに出でてあそびけるを、 ゐのもとにいでゝあそびけるを、 井のもとにいでゝあそびけるを。 大人になりければ、 おとなになりにければ、 おとなになりにければ。 男は、この女をこそ得めと思ふ、 おとこはこの女をこそえめとおもふ。 男はこの女をこそえめ。 女はこの男をと思ひつゝ、 女はこのおとこをとおもひつゝ、 をんなはこの男をと心ひつゝ。 親のあはすれど おやのあはすれども おやのあはすることも 聞かでなむありける。 きかでなむありける。 きかでなんありける。 さて、この隣の男の さて、このとなりのおとこの さてこのとなりのおとこの もとよりかくなむ。 もとよりかくなむ。 もとよりなん。 つひにほいのごとくあひにけり。 つゐにほいのごとくあひにけり。 ほいのごとくあひにけり。 さて年ごろふるほどに、 さてとしごろふるほどに、 さて年ごろふるほどに。 女、親なく、 女、おやなく 女のおやなくなりて。 たよりなくなるままに、 たよりなくなるまゝに、 たよりなかりければ。 「もろともにいふかひなくて あらむやは」とて、 もろともにいふかひなくて あらむやはとて、 かくて あらんやはとて。 河内の国、高安の郡に、 かうちのくに、たかやすのこほりに、 かうちのくにたかやすのこほりに いきかよふ所いできにけり。 いきかよふ所いできにけり。 いきかよふ所いできにけり。 さりけれど、このもとの女、 さりけれど、このもとの女、 さりけれど。 このもとの女。 あしとおもへる気色もなくて あしとおもへるけしきもなくて、 あしとおもへるけしきもなく。 いだしやりければ、 いだしやりければ、 くるればいだしたてゝやりければ。 男こと心ありて、 おとこ、こと心ありて 男こと心ありて。 かゝるにやあらむと思ひうたがひて、 かゝるにやあらむと思ひうたがひて、 かゝるにやあらんとおもひうたがひて。 前栽の中にかくれゐて、 せんざいのなかにかくれゐて、 ぜんざいのなかにかくれゐて。 河内へいぬる顔にて見れば、 かうちへいぬるかほにて見れば、 かの河內へいぬるかほにて見れば。 この女 この女、 この女。 いとようけさじて、うちながめて、 いとようけさうじて、うちながめて いとようけさうして。 うちながめて。 かぎりなくかなしと思ひて、 かぎりなくかなしと思て、 限なくかなしと思ひて。 河内へもいかずなりにけり。 かうちへもいかずなりにけり。 河內へもおさ〳〵かよはずなりにけり。 まれまれ まれまれ さてまれ〳〵 かの高安に来て見れば、 かのたかやすにきて見れば、 かのたかやすのこほりにいきて見れば。 はじめこそ心にくもつくりけれ、 はじめこそ心にくもつくりけれ、 はじめこそこゝろにく・[くイ]もつくりけれ。 いまはうちとけて、 いまはうちとけて、 いまはうちとけて。 髮をかしらに卷あげて。 おもながやかなる女の。 てづから飯匙とりて ゝづからいゐがひとりて、 てづ・[かイ]らいひがいをとりて。 笥子の けこの けごの うつはものにもりけるを見て、 うつはものにもりけるを見て、 うつはものに。 もりてゐたりけるをみて。 心うがりていかずなりけり。 心うがりていかずなりにけり。 心うがりていかずなりにけり。 さりければ、かの女、 さりければ、かの女、 さりければ。 大和の方を見やりて、 やまとの方を見やりて、 かの女やまとのかたを見やりて。 からうじて大和人「来む」といへり。 からうじてやまと人、こむといへり。 からうじて。 やまと人こむといへり。 よろこびて待つに、たびたび過ぎぬれば、 よろこびてまつにたびたびすぎぬれば、 よろこびてまつに。 たび〳〵過ぬれば。 男すまずなりにけり。 おとこすまずなりにけり。 おとこすまずなりにけり。 昔、おとこ、かたゐなかにすみけり。 かたいなかにすみけり。 男宮仕へしにとて、 おとこ、宮づかへしにとて、 おとこ宮づかへしにとて。 別れ惜しみてゆきにけるまゝに、 わかれおしみてゆきにけるまゝに わかれおしみてゆきにけるまゝに。 三とせ来ざりければ、 三とせこざりければ、 みとせこざりければ。 待ちわびたるけるに、 まちわびたりけるに、 まちわたりけるに。 いとねむごろにいひける人に、 いとねむごろにいひける人に、 いとねんごろにいひける人に。 「今宵あはむ」とちぎりたりけるに、 こよひあはむとちぎりたりけるを、 こよひあはんとちぎりたりけるに。 この男きたりけり。 このおとこきたりけり。 この男きたりけり。 「この戸あけ給へ」とたゝきけれど、 このとあけたまへとたゝきけれど、 この戶あけたまへと。 たゝきければ。 あけで、歌をなむよみていだしたりける。 あけで、うたをなむよみていだしたりける。 あけてなんうたをよみていだしたりける。 おとこ。 いなんとすれば。 うらみて女。 といひけれど、おとこかへりにけり。 といひけれど。 男かへりにけり。 女いとかなしくて、 女いとかなしくて、 女いとかなしうて。 後にたちて追ひゆけど、 しりにたちてをひゆけど、 しりにたちてをひけれど。 え追ひつかで、 えをひつかで、 えをひつかで。 清水のある所にふしにけり。 し水のある所にふしにけり。 し水のある所にふしにけり。 そこなりける岩に、 そこなりけるいはに、 そこなる岩に。 およびの血して、書きつける。 およびのちしてかきつけゝる。 をよびのちしてかきつけゝり。 とかきて、そこにいたづらになりにけり。 とかきて。 いたづらになりにけり。 むかし、おとこありけり。 昔おとこありけり。 あはじともいはざりける女の、 あはじともいはざりける女の、 あはじともいはざりける女の。 さすがなりけるがもとにいひやりける。 さすがなりけるがもとにいひやりける。 さすがなりけるがもとにいひやりける。 女のもとにひと夜いきて、 女のもとにひとよいきて、 人のむすめのもとに一夜ばかりいきて。 又もいかずなりにければ、 又もいかずなりにければ、 またもいかずなりにければ。 女のおやはらだちて。 女の、 手洗ふ所に、 貫簀をうちやりて、 女の てあらふところに ぬきすをうちやりて、 手あらふ所に。 ぬきすをとりてなげすてければ。 たらひのかげに見えけるを、 たらひのかげに見えけるを、 たらひの水に。 なくかげのみえけるを。 みづから、 みづから、 みづから。 来ざりける男、立ち聞きて、 かのこざりけるおとこたちきゝて、 このこざりける おとこきゝて。 出でていにければ、 いでゝいにければ、 いでていにければ。 いひがひなくて。 めしあづけられたりけるに、 めしあづけられたりけるに めしあげられたりけるに。 肥後のすけなりける人。 はつかなりける女のもとに、 はつかなりける女のもとに、 はつかなりける女に。 宮の内にて、 宮のうちにて、 宮のうちにて。 ある御達の局のまへをわたりけるに、 あるごたちのつぼねのまへをわたりけるに、 あるごたちのつぼねのまへをわたるに。 なにのあたにか思ひけむ、 なにのあたにかおもひけむ、 なにをあだとかおもひけん。 「よしや草葉よ、ならむさが見む」 よしやくさばなのならむさが見む、 よしや草葉のならんさが見ん といふ。 といふ。 いひければ。 男、 おとこ、 男。 といふを、ねたむ女もありけり。 といふを。 ねたう女も思ひけり。 なにともおもはずやありけむ。 津の国、菟原の郡に つのくに、むばらのこほりに 津のくにむばらのこほりに かよひける女、 かよひける女、 すみける女にかよひける。 このたびいきては、 このたびいきては 此たびかへりなば。 又は来じと思へる気色なれば、 又はこじと思へるけしきなれば、 又はよもこじと思へるけしきをみて。 男、 おとこ、 女のうらみければ。 ゐなか人の事にては、よしやあしや。 いなかの人のことにてはいかゞ。 つれなかりける人のもとに、 つれなかりける人のもとに つれなかりける人のもとに。 おもなくていへるなるべし。 おもひ〳〵ていへるなるべし。 心にもあらで絶えたる人のもとに、 心にもあらでたえたる人のもとに 心にもあらでたえにける女のもとに。 問ひ事しける女のもとに、 ゝひごとしける女のもとに、 とひごとしける女のもとに。 色好みなりける女に逢へりけり。 いろごのみなりける女にあへりけり。 いろごのみなりける人をかたらひて。 うしろめたくや思ひけむ、 うしろめたくやおもひけむ。 うしろめたなしとやおもひけん。 きのありつね物にいきて。 ありきて遅く来けるに、 ありきてをそくきけるに、 ひさしうかへらざりけるに よみてやりける。 よみてやりける。 いひやる。 おはしましけり。 その帝のみこ、崇子と申す そのみかどのみこ、たかいこと申す いまそがりけり。 いまそかりけり。 女くるまにあひのりていでたりけり。 いと久しう率ていで奉らず。 いとひさしうゐていでたてまつらず。 うち泣きてやみぬべかりけるあひだに、 うちなきて、やみぬべかりかるあひだに、 天の下の色好み、 あめのしたのいろこのみ、 源至といふ人、 源のいたるといふ人、 これももの見るに、 これもゝの見るに、 この車を女車と見て、 この車を女くるまと見て、 寄り来て、とかくなまめくあひだに、 よりきてとかくなまめくあひだに、 かの至、蛍をとりて かのいたる、ほたるをとりて、 女の車に入れたりけるを、 女のくるまにいれたりけるを、 車なりける人、 くるまなりける人、 この蛍のともす火にや見ゆらむ、 このほたるのともす火にや見ゆるらむ、 ともし消ちなむずるとて、 ともしけちなむずるとて、 乗れる男のよめる。 のれるおとこのよめる。 猶ぞ有ける。 至は順が祖父なり。 いたるは、したがふがおほぢ也。 みこの本意なし。 みこのほいなし。 けしうはあらぬ女を思ひけり。 けしうはあらぬ女を思ひけり。 けしうあらぬ人を思ひけり。 さかしらする親ありて、 さかしらするおやありて、 さかしらするおやありて。 思ひもぞつくとて、 おもひもぞつくとて、 おもひもつくとて。 この女を この女を このをんなを ほかへ逐ひやらむとす。 ほかへをひやらむとす。 ほかへならんといふ[おひやらんとすイ]。 さこそいへ、まだ逐ひやらず。 さこそいへ、いまだをいやらず。 人の子なれば、 人のこなれば、 人の子なれば。 まだ心いきほひなかりければ、 まだこゝろいきおひなかりければ、 まだ心ごゝろのいきをひなくて。 とどむるいきほひなし。 とゞむるいきおひなし。 えとゞめず。 女もいやしければ、すまふ力なし。 女もいやしければ、すまふちからなし。 女もいやしければ。 すまふちからなし。 さる間に さるあひだに、 さこそいへ。 まだえやらずなるあひだに。 思ひはいやまさりにまさる。 おもひはいやまさりにまさる。 思ひはいやまさりにまさる。 にはかに親この女を逐ひうつ。 にはかにおや、この女をゝひうつ。 おやこの女ををひいづ。 男、血の涙をながせども、 おとこ、ちのなみだをながせども、 男ちのなみだをおとせども。 とどまるよしなし。 とゞむるよしなし。 とゞむるちからなし。 率て出でていぬ。 ゐていでゝいぬ。 つひにいぬれ[ゐていでていぬイ]。 女かへし人につけて。 おとこ、なくなくよめる。 おとこなく〳〵よめる。 とよみてたえいりにけり。 とよみてたえいりにけり。 親あわてにけり。 おやあはてにけり。 おやあはてにけり。 なほ思ひてこそいひしか、 猶思ひてこそいひしか、 なをざりに思ひてこそいひしか。 いとかくしもあらじと思ふに、 いとかくしもあらじとおもふに、 いとかくしもあらじとおもふに。 真実に絶え入りにければ、 しんじちにたえいりにければ、 まことにたえいりたれば。 まどひて願立てけり。 まどひて願たてけり。 まどひて願などたてけり。 今日の入相ばかりに絶え入りて、 けふのいりあひ許にたえいりて、 けふのいりあひばかりにたえいりて。 又の日の戌の時ばかりになむ、 又の日のいぬの時ばかりになむ、 又の日のいぬの時ばかりになん。 辛うじていき出でたりける。 からうじていきいでたりける。 からうじていきいでたりける。 むかしの若人は、 むかしのわか人は、 むかしのわか男は。 さる好けるもの思ひをなむしける。 さるすける物おもひをなむしける。 かゝるすける物思ひなんしける。 今の翁まさにしなむや。 いまのおきな、まさにしなむや 今のおきなまさにしなんやは。 昔、女はらからふたりありけり。 昔女はらからふたり有けり。 ひとりはいやしき男の貧しき、 ひとりはいやしきおとこのまづしき、 ひとりはいやしき男のまづしき。 ひとりはあてなる男もちたりけり。 ひとりはあてなるおとこもたりけり。 ひとりはあてなる男のとくあるもちたりけり。 いやしき男もたる、 いやしきおとこもたる、 そのいやしきおとこもちたる。 師走のつごもりに しはすのつごもりに、 しはすのつごもりに。 上の衣を洗ひて、手づから張りけり。 うへのきぬをあらひてゝづからはりけり。 うへのきぬをあらひて。 手づからはりけり。 志はいたしけれど、 心ざしはいたしけれど、 心ざしはいたしけれども。 さる賎しき業も慣はざりければ、 さるいやしきわざもならはざりければ、 いまださるわざもならはざりければ。 上の衣の肩を張り破りてけり。 うへのきぬのかたをはりやりてけり。 うへのきぬのかたをはりさきてけり。 せむ方もなくてたゞ泣きに泣きけり。 せむかたもなくて、たゞなきになきけり。 せんかたもなくて。 なきにのみなきけり。 これを、かのあてなる男聞きて、 これをかのあてなるおとこきゝて、 これをかのあてなる男きゝて。 いと心苦しかりければ、 いと心ぐるしかりければ、 いと心ぐるしかりければ。 いと清らかなる録衫の上の衣を いときよらなるろうさうのうへのきぬを、 いときよげなりける四位のうへのきぬ。 見出でてやるとて、 見いでゝやるとて、 たゞかた時に見いでて。 むさしのゝ心なるべし。 むさし野の心なるべし。 色好みと知る知る女を いろごのみとしるしる、女を 色ごのみとしる〳〵。 あひ言へりけり。 あひいへりけり。 女をあひしけり。 されど憎くはたあらざりけり。 されどにくゝはたあらざりけり。 にくゝもあらざり しばしばいきけれど しばしばいきけれど、 けれど。 なほいと 猶いと なをいとうたがひ 後めたく、 うしろめたく、 うしろめたなし[き歟]うへに。 さりとて、いかではた得あるまじかりけり。 さりとて、いかではたえあるまじかりけり。 いとたゞには。 なほはた得あらざりけるなかなりければ、 なをはたえあらざりけるなかなりければ あらざりけり。 二日三日ばかりさはることありて、 ふつかみか許、さはることありて、 ふつかばかりいかで。 えいかでかくなむ。 えいかでかくなむ。 かくなん。 ものうたがはしさによめるなりけり。 ものうたがはしさに。 よめるなり。 かやのみこと申すみこおはしましけり。 かやのみこと申すみこ おはしましけり。 その親王、女をおぼしめして、 そのみこ、女をおぼしめして、 其みこ女を いと賢う恵みつかう給ひけるを、 いとかしこくめぐみつかうたまひけるを、 いとかしこう。 めしつかひたまひけり。 人なまめきて有りけるを、 人なまめきてありけるを、 いとなまめきて有けるを。 わかき人はゆるさゞりけり。 我のみと思ひけるを、 われのみと思けるを、 我のみと思ひけるを。 又人聞きつけて、文やる。 又人きゝつけてふみやる。 又人きゝつけて文やる。 ほととぎすの形を書きて、 ほとゝぎすのかたをかきて、 郭公のかたをつくりて。 といへり。 といへりけり。 この女、気色をとりて、 この女、けしきをとりて、 この女けしきをとりて。 時はさ月になむありける。 一時はさ月になんありければ。 男返し、 おとこ、返し、 男又返し。 第44段 馬のはなむけ ? むかし、県へゆく人に むかし、あがたへゆく人に 昔あがたへゆく人に。 馬のはなむけせむとて、 むまのはなむけせむとて、 馬のはなむけせんとて。 呼びて、 よびて、 よびたりけるに。 疎き人にしあらざりければ、 うとき人にしあらざりければ、 うとき人にしあらざりければ。 家刀自、盃さゝせて いゑとうじさか月さゝせて、 いへとうじして。 さかづきさゝせなどして。 女の装束かづけむとす。 女のさうぞくかづけむとす。 女のさうぞくかづく。 主の男、歌詠みて、 あるじのおとこ、うたよみて、 あるじの男うたをよみて。 裳の腰に結ひつけさす。 ものこしにゆひつけさす。 ものこしにゆひつけさす。 心とゞめてよます、はらにあぢはひて。 むかし、おとこありけり。 むかし宫づかへしける男。 人の娘のかしづく、 人のむすめのかしづく、 すゞろなるけがらひにあひて。 いかでこの男にもの言はむと思ひけり。 いかでこのおとこにものいはむと思けり。 家にこもりゐたりけり。 うちいでむこと難くやありけむ、 うちいでむことかたくやありけむ、 もの病になりて死ぬべきときに、 ものやみになりて、しぬべき時に、 時はみな月のつごもりなり。 「かくこそ思ひしか」といひけるを、 かくこそ思ひしか、といひけるを、 夕暮に風すゞしく吹。 螢など飛ちがふを。 親聞きつけて、 おやきゝつけて、 まぼりふせりて。 泣く泣く告げたりければ、 なくなくつげたりければ、 まどひ来たりけれど、死にければ、 まどひきたりけれどしにければ、 行螢雲の上まていぬへくは つれづれと籠りをりけり。 つれづれとこもりをりけり。 秋風吹とかりにつけこせ 時は水無月のつごもり、 時はみな月のつごもり、 昔すき者の心ばえあり。 いと暑きころほひに、 いとあつきころをひに、 あでやかなりける人のむすめのかしづくを。 宵はあそびをりて、 よゐはあそびをりて、 いかで物いはんと思ふ男有けり。 夜は更けてやゝ涼しき風吹きけり。 夜ふけて、やゝすゞしき風ふきけり。 こゝろよはくいひいでんことやかたかりけん。 蛍高く飛びあがる。 ほたるたかうとびあがる。 物やみになりてしぬべきとき。 この男、見ふせりて、 このおとこ、見ふせりて、 かくこそおもひしかといふに。 おやきゝつけたりけり。 しにゝければ。 秋風吹くと雁に告げこせ 秋風吹とかりにつげこせ 家にこもりて。 つれ〴〵とながめて。 いとうるはしきともありけり。 かた時去らずあひ思ひけるを、 かた時さらずあひおもひけるを、 人の国へいきけるを、 人のくにへいきけるを、 いとあはれと思ひて別れにけり。 いとあはれと思て、わかれにけり。 月日経ておこせたる文に、 月日へてをこせたるふみに、 あさましく対面せで あさましくえたいめんせで、 月日の経にけること。 月日のへにけること、 忘れやし給ひにけむと、 わすれやしたまひにけむと いたく思ひわびて なむ侍る。 いたくおもひわびてなむ侍。 世の中の人の心は、 世中の人の心は、 目離るれば めかるれば 忘れぬべきものにこそあめれ。 わすれぬべきものにこそあれめ、 といへりければ、よみてやる。 といへりければ、よみてやる。 懇にいかでと思ふ女ありけり。 ねむごろにいかでと思女ありけり。 ねんごろにいかでと思ふ女ありけり。 されど、この男をあだなりと聞きて、 されど、このおとこをあだなりときゝて、 されどこの男あだなりときゝて。 つれなさのみまさりつゝいへる。 つれなさのみまさりつゝいへる。 つれなさのまさりて。 むかし、おとこありけり。 むかしおとこ有けり。 馬のはなむけせむとて、 むまのはなむけせむとて、 ものへ行人に。 むまのはなむけせんとて。 人を待ちけるに、来ざりければ、 人をまちけるに、こざりければ、 ひと日まちけるに。 こざりければ。 妹の いもうとの いもうとの いとをかしげなりけるを見をりて、 いとおかしげなりけるを見をりて、 おかしげなるを見て。 返し、 ときこえけり。 返し、 ときこえければ。 むかし、おとこ有けり。 むかし男有けり。 恨むる人を恨みて、 うらむる人をうらみて、 人をうらみて。 をんな。 かたみにしける男女の、 かたみにしけるおとこ女の、 たがひに 忍びありきしけることなるべし。 しのびありきしけることなるべし。 しのびありきすることをいふなるべし。 人の前栽に菊植ゑけるに、 人のせんざいにきくうへけるに、 人の前栽うへけるに。 むかし、おとこありけり。 むかしおとこありけり。 人のもとより、 人のもとより 人のもとより。 かざり粽おこせたりける返り事に、 かざりちまきをゝこせたりける返ごとに かざりちまきをこせたる返事に。 とて、きじをなむやりける。 きじをなんやりける。 あひがたき女にあひて、 あひがたき女にあひて、 あり(あひ一本)がたかりける女に。 物語などするほどに、 物がたりなどするほどに、 物がたりなどするほどに。 鶏の鳴きければ、 とりのなきければ、 とりのなきければ。 つれなかりける女に言ひやりける。 つれなかりける女にいひやりける。 つれなかりける女に。 いひやりけり。 臥して思ひ起きて思ひ、 ふしておもひおきておもひ、 ふして思ひおきて 思ひあまりて、 おもひあまりて、 おもひあまりて。 人知れぬ物思ひけり。 人しれぬ物思ひけり。 人しれぬ物おもひける男。 つれなき人のもとに、 つれなき人のもとに、 つれなき女のもとに。 長岡といふ所に ながをかといふ所に、 なが岡といふ所に 家造りてをりけり。 いゑつくりてをりけり。 家つくりてをりけり。 そこの隣なりける、宮ばらに、 そこのとなりとなりける宮はらに、 そこのとなりなりける宮ばらに。 こともなき女どもの、 こともなき女どもの、 こともなき女どもありけり。 田舎なれければ、 ゐなかなりければ、 ゐなかなりければ。 田刈らむとてこの男のあるを見て、 田からむとて、このをとこのあるを見て、 田からす[む]とて此男見をりけるに。 「いみじのすき者のしわざや」とて いみじのすきものゝしわざやとて、 いみじのすきものの。 しわざやとて 集りていり来れば、 あつまりていりきければ、 あつまりいりきけれは(いりければ一本)。 この男、逃げて奥にかくれにければ、 このおとこ、にげておくにかくれにければ、 此男おくににげいりにけき。 女、 女、 女かく。 この宮に集り来ゐてありければ、 この宮にあつまりきゐてありければ、 あつまりきければ。 この男、 おとこ、 おとこ。 とてなむいだしたりける。 といひてなむ出したりける。 この女ども、「穂ひろはむ」といひければ、 この女ども、ほひろはむといひければ、 此女どもほひろはんといひければ。 京をいかゞ思ひけむ。 京をいかゞおもひけむ、 みやこをいかゞ思ひけん。 東山に住まむと思ひ入りて、 ひむがし山にすまむとおもひいりて、 ひんがし山にすまんとおもひ。 いきて。 ものいたく病みて、死に入りければ、 物いたくやみて、しにいりたりければ、 物いたうやみてしに入たりければ。 おもてに水そゝぎなどして おもてに水そゝぎなどして、 おもてに水そゝぎなどし・(ければ一本) いき出でて、 いきいでゝ、 いきいでて。 となむいひて、いきいでたりける。 といひてぞいき出たりける。 まことにかぎりになりける時。 昔、をとこ有けり。 昔男有けり。 宮仕へいそがしく、 宮づかへいそがしく、 宮づかへもいそがしくて。 心もまめならざりけるほどの 心もまめならざりけるほどの 心もまめならざりければ。 家刀自、 いへとうじ、 家とうじ「と新」[イニナシ] まめに思はむといふ人につきて、 まめにおもはむといふ人につきて、 まめに思はんといひける人につきて。 人の国へいにけり。 人のくにへいにけり。 人の國へいにけり。 この男、宇佐の使にていきけるに、 このおとこ、宇佐のつかひにていきけるに、 この男うさの使にていきけるに。 ある国の祇承の官人の妻にて あるくにのしぞうの官人のめにて ある國のしぞうの官人のめに なむあると聞きて、 なむあるときゝて、 なんあると聞て。 「女あるじにかはらけとせよ。 女あるじにかはらけとらせよ、 女あるじに。 かはらけとらせよ。 さらずは飲まじ」といひければ、 さらずはのまじ、といひければ、 さらばのまんといひければ。 かはらけ取りいだしたりけるに、 かはらけとりていだしたりけるに、 かはらけとらせて。 いだしたりけるに。 肴なりける橘をとりて、 さかなゝりけるたちばなをとりて、 さかななりけるたち花をとりて。 思ひ出て 尼になりて、山に入りてぞありける。 あまになりて、山にいりてぞありける。 あまになりて。 山には入にける。 「これは色好むといふすきもの」と これはいろこのむといふすき物と これはいろこのむなるすきものぞと。 簾のうちなる人の、 すだれのうちなる人の すだれのうちなる人の いひけるを聞きて、 いひけるをきゝて、 いひけるをきゝて。 心かしこくやあらざりけむ。 心かしこくやあらざりけむ、 心かしこくやあらざりけん。 はかなき人の言につきて、 はかなき人の事につきて、 はかなき人のことにつきて。 人の国になりける人に使はれて、 人のくになりける人につかはれて、 人の國なりける人につかはれて。 もと見し人の前にいで来て、 もと見し人のまへにいできて、 もとみし人のまへにいできて。 物食はせなどしけり。 物くはせなどしけり。 物くはせなどしありきけり。 長きかみをきぬのふくろに入て。 遠山ずりのながきあををぞきたりける。 「夜さり、このありつる人給へ」 よさり、この有つる人たまへ、 よさりこのありつる人たまへと。 と主にいひければ、 とあるじにいひければ、 あるじにいひければ。 おこせたりけり。 をこせたりけり。 をこせたりけり。 男、「我をば知らずや」とて、 おとこ、われをばしるやとて、 男われをばしらずやとて。 いとはづかしとおもひて。 いらへもせでゐたるを、 いらへもせでゐたるを、 いらへもせでゐたるを。 「などいらへもせぬ」といへば、 などいらへもせぬといへば、 などいらへもせぬといへば。 「涙のこぼるゝに目もみえず、 なみだのこぼるゝにめを見えず、 淚のながるゝに。 めもみえず ものもいはれず」といふ、 物もいはれず、といふ。 ものもいはれずといへば。 おとこ。 衣ぬぎて取らせけれど、 きぬゝぎてとらせけれど、 きぬぬぎてとらせけれど。 すてて逃げにけり。 すてゝにげにけり。 すててにげにけり。 いづちいぬらむとも知らず。 いづちいぬらむともしらず。 いづこにいぬらんともしらず。 世ごゝろある女。 「いかで心情けあらむ男に いかで心なさけあらむおとこに いかでこのなさけある男を あひえてしがな」と思へど、 あひえてしがなとおもへど、 かたらひてしがなと思へども。 言ひ出でむも頼りなさに、 いひいでむもたよりなさに、 いひいでんにもたよりなければ。

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